バーゼルでの日本人独立時計師

2013バーゼルワールドでは二人の日本人独立時計師の方にお会いしました。
一人は菊野昌宏さんともうひと方は浅岡肇さんです。

ホール2の一階にAHCI独立時計師アカデミー会員)のコーナーがありますがその中に日本人としてお二人が出品されていました。
AHCIは企業に属せずに独立して時計製作活動をしている人の集まりで34名いるそうですがその中で日本人は現在2名です。
お二人について紹介します。

菊野さんは1983年生のまだ若い方ですがヒコみづので講師をしながら2011年に不定時法腕時計(和時計)製作がフィリップデュフォーさんに認められ準会員となり2013年に正会員となりました。
日本人初の独立時計師というのは非常に意義のあることだと思います。

和時計とは昼と夜を二分しそれぞれを6等分したものを一刻(いっとき)とする昔の時刻です。

その後永久カレンダー、トウールビヨンを製作し、今回のバーゼルではORIZURUというアワーリピーターとオートマタの複雑時計プロトタイプを発表していました。

実際に手にとって見せてもらいましたがすべて手作業で完成していて量産品にはない手作り感が強く感じられました。
金無垢でできた鶴(折鶴)の羽が動く造りになっています。
年にひとつのペースで新モデルを開発しているようですが次の製品は何を手がけるのか楽しみです。




浅岡肇さんは2013年に準会員となられて今回が初めてのバーゼル出品です。
もともと芸大出身のプロダクトデザイナーだったのが時計の密な世界にはまりCNCや工作機械を駆使して自ら時計を製作したのがいきなりトウールビヨンというすごい人です。

ムーブメントはもちろんケース、文字板、針などすべてを自作しているそうです。

このフェアではトウールビヨンを出品しています。
42ミリのSSケースですがこれも手にとって見せてくれましたが実にきれいな仕上げだったのが印象的でした。
文字板のデザインも独創性と美が伝わってきます。
高い精度と高仕上げのムーブ部品製作によってかなり高精度のトゥールビヨンになっています。

価格は680万円で銀座和光で展示し受注生産をするようです。

幼少の頃から工作好きで大工になりたかったとか。
浅岡さんが載った雑誌にこんなくだりが書いてありました。

プロダクトデザイナーとして作りたかったのは車とカメラと機械式時計の三つ。
車はメーカーに入社しなければ造るのは無理、カメラは精密機械から電気屋さんの対象になってきたので興味が薄れ、残ったのが時計。
すべて独学で時計製造技術を学びオフィスには必要な工作機械を揃えています。

時計の魅力について浅岡さんによれば、
『ひとつはその密度、小さなケースにあれだけの部品が詰まっている。
それと仕上げ、工業製品の中でここまで入念な仕上げを行う製品は他に無い。
常軌を逸した業界だがその凄みに魅力を感じる』
ということですがその言葉に私もまったく同感です。

浅岡さんはその製作過程を惜しげもなくブログで公開していますので興味のある方はご覧になってください。






写真左から菊野氏、私、浅岡氏、そして当社のNaoki

高級時計の世界ではスイスのブランドばかりが目立っていますが日本人時計師が世界に出て行くことは大いに歓迎すべきことです。

日本には大手の時計メーカーがありますがそれらは量産を主とした大衆時計が中心のため残念ながら世界のマーケットのなかでは高級時計としてのブランドの位置づけにはなっていません。
日本の時計というとどうしても高級品にはならないのがこれまでの流れです。

こうした大手企業に属さない日本人独立時計師が出てきて日本から世界に発信していくことで世界の高級時計市場で日本の時計づくりが評価され底上げされていくことが期待できます。
若い人たちがあとに続き日本人の手による手作りの高級時計を世界に発信して欲しいと思います。