クラフツマンプロは本当に買い得か?
ケンテックス10周年を記念した、時計メーカーとして誇れる時計を造りたい。
メーカーとして本格的なプレステージウォッチを造りたい‥
その強い思いからこのアイデアが私の中でスタートしたのが2006年の5月頃でした。
当時を少し振り返って見たいと思います。
プレステージウォッチの条件とは何か?
その辺から調べ始めました。
ある雑誌でプレステージウォッチの特集をしている記事を見つけました。
そこには有名ブランドのプレステージと言われるいくつかの時計が紹介されていましたがなんとプレステージの時計は8角形であることがポイントだと言うことが書いてありました。
確かに!
かの有名な時計の多くが8角形をケースまたはベゼルにモチーフしているのが多いことがあらためて分かりました。
それ以来私の中でどう8角形をデザインに取り入れるかがテーマになりました。
しかし私の個人的な感性として8角形の時計と言うのが若干抵抗がありなんとか丸の形をうまく入れながら全体に調和したデザインになるような形を模索しました。
日本人の感性にはやはり落ち着いた丸の形状が一般的に受けいれられるのではないかというのが私の見方です。
余談ですがヨーロッパのモデルにはこれでもかと自己主張したデザインが多く圧倒的に個性が強いですが日本の時計メーカーにはこういったデザインは少ないですね。
日本のモデルはやはり無難なデザインにまとまっています。一因として日本人(日本のマーケット)のコンサバなところがあると思います。
この辺を考慮しながら奇をてらわず長く持ち続けられるデザインを志向しました。
そしてもちろんデザインだけでなく時計としてのスペックが本格的でなくてはプレステージとは名ばかりになってしまいます。
この時計では基本コンセプトとして時計としての実用性の高さを主題にしました。
時計本来の究極の実用性とは何か?
それを徹底的に追求しようと試みました。
まずムーブはやはり傑作といえる安定した性能を発揮するETA2824を採用。
そしてこの優れたムーブをいつまでも維持するために強い磁場から守るための本格的な耐磁性能であること。
これはランドマン3で培った軟鉄インナーケースを採用することで64000A/mの耐磁能力が可能です。
日本のJIS規格である耐磁時計2種規格が16000A/mですがこれをはるかに超えるレベルになっています。
携帯電話を日常使用する今の生活環境ではすでに2種規格といえども規格自体が時代遅れではないかと私は思います。
そして機械式時計の強敵である万が一のショックから守る耐衝撃構造。
ETAにはすでにムーブ自体に優れたアンチショック構造が採られていますがプレステージと言うからには普通のショックではないレベルにも耐えられる構造にまで欲張りたい。
そこで考えたのがたる型の小さいゴムパッキンを複数個(8個程度)ケースとインナーケースの間に緩衝材として配置することで強い衝撃を吸収する構造です。
同時に裏蓋側にも上下方向の衝撃を抑えるゴムパッキンを防水用のパッキンとは別に配置しています。
そしてさらに重要な視認性についても。
これまでスーパー蓄光を採用した時計をたくさん造ってきました。
暗闇でかなり明るい視認性を発揮しますが完全な暗闇の中ではやはり時間がたてば見えなくなってしまうのは避けられません。
それと文字板には生産上の技術的理由で蓄光塗料の厚みに限界があるので針の明るさに比べるとどうしても見劣りする欠点があります。
本格的な視認性を追求するとなるとどんな暗闇の状態が長時間続いてもはっきりと時刻を確認できる半永久的な視認性が欲しくなります。
そこで採用したのがスイスのMBマイクロテクスが開発したトリチウムガスを封入したガラス管を採用したマイクロガスルミナイトシステムです。
20年以上も自発光を続けるものでもともとは軍用に開発されたものです。
当社としてはすでにOEMでは製造していたのでこの技術は持っていました。
ただ小売価格との兼ね合いで使うかどうかは慎重になっていました。
しかし究極の実用性を考えたときたとえ真夜中の車の中や屋外であっても長時間の視認性を確保できることはプレステージと言うからには必要だと言う決心にいたりました。
実際に自分で試作品を携帯していた時に映画館の中で時間が分かる便利さをあらためて実感しました。
しかもスーパー蓄光との併用で実際の使用ではかなり明るく実用的なレベルになっています。
ガラスはいつまでもクリアーな視認性を確保できる傷のつかないサファイアクリスタルを使用。
ここまでのスペックですでにスイスの某有名時計にも負けないぐらいの時計になっています。
もうプレステージウォッチと言っても充分恥ずかしくないレベルになっていると言えます。
しかしここでもうひとつ材質にこだわりました。
ここまでくればステンレスでもいい時計になると思いましたがさらに重さと耐アレルギーにもこだわりました。
たとえ耐磁性がありいい時計であっても重いのは日常使う場合にどうなのか。
やはり適度な軽さのほうが実用性は高いと言えるのではないだろうか。
それに私自身ステンレスベルトを何日か続けて使用しているとかぶれることがある。
自分が分かっているマイナスは取り除き最高で完璧な時計を造るべきだ。
その思いもあって値段がさらに高くなることを承知でチタンにこだわりました。
正直いってチタンは高いです。過去数年でかなり高騰しました。材料費だけでなく加工上も難しくその分高くなります。
もう普通の時計ではチタンを採用することはほとんどなくなっているのが生産現場の現状です。
後の話ですが今では、結果的には妥協せずチタンを採用して良かったと思っています。
こうして2006年9月の香港でのインターナショナルウォッチフェアですでにほぼ現在のデザインに近い形での試作品を展示発表しました。
そのときにはETA自動巻きのほかクロノグラフ(クオーツ)も展示しています。
それからさらに試行錯誤を重ねモデルのリファインをして2007年4月のバーゼルでも展示発表しました。
日本の時計誌でも記事となったので時計ファンの方の注目と関心を集めました。
何せそのスーパースペックから見ても断然スイスブランドに比べて割安ですからね。
その後雑誌やネットでも大変話題を提供したクラフツマンプロですがようやく生産が完了しお客様の手に届くことになりました。
わづか100個の限定品となりますがこの時計には私の強い思いが入っています。
この時計は極めて完成度の高い優れた時計であると自信を持って言えます。
この時計を入手できる人はたったの100人ですがきっとその期待を裏切らないものと確信しています。
これだけのスペックで7万円台はリーズナブルを通り越してかなりのお買い得であると信じています。
時計の知識のある方ならこのスペックでこの価格は正直言って驚愕するレベルでしょう。
本音はもう少し高い価格にして、これだけ時間を掛け努力した分だけもっと会社に利益を貢献したいところですがだからといって利益なしでやっているわけでもありません。
あくまでケンテックスの理念である”いいものをリーズナブルに”を通しました。
私はあえてスイスブランドに対抗しているつもりはありませんが実は今のスイスブランドの価格はいったい何なのかと言う思いはあります。
なぜスイスブランドであればめっぽう高い価格が市場で通用してしまうのか。なぜ日本の消費者はそれを受け入れるのか?という疑問はあります。
時計の場合特にこの傾向が極端に強いと感じます。
日本の場合競って発行されている時計雑誌が一方でそれを煽っていると言っても過言ではないと思います。
そこには本当の時計の評価ではなく資本の論理と言うかやはりお金(宣伝費)でこういったメディアが動かされている(記事を書いている)事実は見逃せません。
確かにブランドは長い年月を経てできているものでありそれが安心感とステータスとして高いブランド料を払ってでも欲しがるのは人情です。
本当に実力のある価格に見合ったブランドもあります。
しかし時計の実力と価格が本当に見合ったものなのかと言う疑問で見る人はまだ少ないようです。それを正確に見極められる人も少ないのが現状でしょう。
私のような時計の製造に何年もの長い間漬かっている作り手側の人間からみればある程度は時計のレベルは分かります。
今のスイス勢の時計の設定価格は正直言って納得できません。設定価格が高すぎます。
よく言えばマーケティングに成功している。
が‥うがった見方をすれば消費者を騙しています。
それがビジネスだと言ってしまえばそれまでですが高い宣伝費の乗った時計を買っている日本の消費者はもっと賢くなって欲しいと願うのは私だけでしょうか。
話がシリアスになってしまいましたがそういった私の日本の時計市場に対する疑問が今回のこのクラフツマンの開発とその価格に反映されていることもひとつです。
スイスブランドでなくてもこれだけの時計ができるのだと言うことを多くの時計ファンにも知ってもらいたいと思います。
ついでに述べますが今、世界の時計製造の現場は圧倒的に中国(おもに広東省南部)にある工場で作られているのをどの程度の人が熟知しているでしょうか。
多くのスイスブランドがケースやバンド、文字板などその部品の多くは中国の工場で作られています。
その結果今の中国の時計の製造技術は時を経てかなり高くなり、ほとんどの日本人の想像を超えたレベルと技術でモノが作られています。
私はその製造現場に近い立場にいますから、その実態が良く分かっています。
世界のブランド時計は実は香港からそのパーツが出荷されている事実を以外に知らない人が多いようです。
そのパーツをスイスで最終組み立てをするだけでSWISS MADEにできますから多くのブランドは当然マーケティング上の理由でそうします。
普通はそうしますよね。商売ですから。
ただケンテックスは中国に自社工場を持っておりそこで最終組立てを行っています。
最終組立て地の違いのみで香港、中国にも優れた組立て技術は育っていますから、裏返せばスイスメイドでなくとも同じレベルの高い品質の時計が香港出荷の時計にもあると言うことです。
こうした背景からハイスペックの時計が香港から出てきても決して不思議ではないのです。
さて長くなりましたがタイトルにあるクラフツマンは本当に買い得か?
という刺激的な質問に対する答えは購入された方に出していただきたいと思います。
予約されたみなさんお待たせしました。もうすぐ時計が届きます。
使用された感想を是非このホームページ内にある購入者の声にぜひご意見をお寄せいただきたいと思ってます。
買って大いに満足したと言う声をいただければ企画開発した人間にとってこの上ない幸せです。励みになります。
また買って不満足という声が多ければ大いに反省し、次に満足してもらえる時計作りに精一杯努力させていただきます。
皆さんの声をぜひお待ちしていますのでよろしくお願いします。