KENTEX25周年モデルの開発
今年はケンテックス社設立25年になります。
この節目の年にこれまでの永年の時計造りで培ってきた技術とデザインを結集させたパーフェクトな最高の時計を造りたいという思いが昨年からありました。
いわばこれまでの集大成モデルということになりますが、その思いで今年初めから新モデルの開発に取り組んでいます。
ケンテックスブランドを日本で発売スタートしたのは1998年です。
初期の頃から比べるとデザインも変化し、こだわりも次第にエスカレートしてきました。
本物を造りたい。
そんな思いでこれまで永年時計造りをして来ました。
時とともにデザインもこなれ、難しい技術要素も取り込んできたせいもあって近年ではようやく本格的な時計に近づいてきたと自負できるようになりました。
25周年モデルの話しに入る前にこれまで造って来たたくさんのKentexモデルのなかで思い出深いものをここで振り返ってみたいと思います。
1997年にイタリア、ベニスにあるジュエリー時計ショップからKentexブランドでの時計造りを委託されたのがそもそものブランドの始まりでした。
それは記念すべきETA2824を搭載したS122Mモデルですが、これが後のCONFIDENCEへとつながります。
1999年にSKYMAN(S143M)とESPY(S153M)を発売し、2000年にLANDMAN(S265M)、2001年にMARINEMANを発売しこの時点で陸、海、空が出揃いました。
そして2000年に先ほど触れたETA2824を搭載したモデルをCONFIDENCEで発売、この頃からケンテックスの感性に響いてくれるファンが少しづつ増えてきました。
このシリーズは時計ファンに強く支持され年一回の限定シリーズが人気を得て2004年まで続けました。
ケンテックスファンならおそらくコンフィデンスを一つはお持ちの方が多いかと思います。
ベーシックな時計ですが飽きの来ない、いつまでも愛着の持てる時計です。
この頃からケンテックスのコンセプトと方向性が徐々に固まってきたように思います。
そしてその後さらに上位の時計造りを目指すようになります。
2002年に初めてバルジュー7750を搭載したモデルとしてLANDMAN2(S294X)を発売、この頃からクオーツと並行して製作したメカモデルをPROと称してETAムーブを中心にレベルの高い時計をめざし,高品質で適正な価格をブランドの目標としました。
2003年には同じくバルジュー7750を搭載したSKYMAN2パイロット(S368X)とESPY2(S349X)を発売しています。
ESPYはCONFIDENCEを上回る品質をめざし、東洋的感覚を取り入れたクラシックスポーツをコンセプトに創られたサブブランドです。
このときに三針タイプのESPY2824モデルも同時に発売しましたがこの年はケンテックスのマスターピースといえる時計が同時に2デザイン生まれた年でした。
極めて数の少ない限定生産ですが今でも私の中ではフラッグシップモデルとして自分でも満足の持てる時計です。
ものづくりというのは製作者の気持ちが表れるものだと思うのですがこのモデルは自分が開発に集中し、思いを込めた結果いいものが出来たという感覚があります。
2004年には初めて軟鉄インナーケースを採用した本格耐磁時計をLANDMAN(S409X-2824搭載)で造りました。
これは軟鉄のインナーケースを内蔵した構造で耐磁性能はJISで規定している「耐磁性能を持つ時計2種規格(直流磁界1600A/m)」をはるかに越える性能です。
この技術ノウハウが後のクラフツマンへとつながります。
今の時代においてはパソコンや携帯など磁場を発生する機器が増え機械式時計というデリケートな精密機械の世界においては高性能なムーブを磁場から守る機能がより意味のあるものになってきています。
そして2005年に日本ブランドとして初めてトゥールビヨン(E410M)を製作しました。75万円での発売でしたが当時スイスのトゥールビヨンは1000万クラス、安いものでも400万円はしていましたから時計業界での大きな話題となりました。
日本の時計業界にケンテックスの名が知られてきた一つにこのトウールビヨンがあります。
その後トゥールビヨンは2006年に第二弾(E436M)、2007年に第三弾(E472M)、2011年第四弾(E540M))と続いています。
E540Mはケース胴横に職人による手彫りのプレート(ゴールド色)をつけたものでクラシックながらとてもラグジュアリー感のある作品に仕上がっています。
そして2006年から開発をスタートし2007年に発売開始したクラフツマン(S526M-01)はKentexのそれまで積み上げた時計造りの成果が凝縮されたモデルと言ってよいでしょう。
ちょうどケンテックスブランドスタート10周年にあたる年でした。
それまでの陸海空のカテゴリーから離れ大人のスポーツウォッチとしてケンテックスの顔となる本格プレステージウォッチを目指したものです
ケンテックスの歴史に残る代表作にする。
その思いで開発したのがクラフツマンでした。
スポーツ感とともに時計としての機能、デザインの美しさを融合させ、そのうえに時計本来の実用性を徹底的に求めた時計、いわば時計としてパーフェクトな超実用時計をめざしました。
この時計の詳細については次回に伝えたいと思いますがその究極の性能として求めたスペックは超耐磁性能、耐衝撃性能、真っ暗な中でも時間の分かるトリチウム発光システム、そして実際の使用で携帯感が抜群のチタニウムケース、バンドの採用でした。
たくさんのスケッチを描き、あれこれと迷いましたが最終的には永遠に飽きの来ないデザインを求めてシンプルなデザインにまとめました。
ケンテックスの一つの理念である「流行に左右されない一生もの」をめざしたのです。
外見は一見地味、中味はスーパーマンであることを目標としました。
初代S526Mはわずか100本の限定品でしたがわずかな期間で完売となってしまいました。
“時計ファンは良く時計を知っている!”
これが造り手である私の感想でした。
これだけの時計はそう簡単には世の中に出てこないことは私自身が一番良く分かっています。
どれだけ造るのに手間がかかり難しいか、そしてあまり商売にならないぐらいにコストも相当高くつきます。
正直言ってメーカー泣かせな時計です。
そんな時計がスイスのブランドに比べたら比べ物にならないほどの安い価格で登場したのですから時計好きにとっては当然魅力ある時計です。
分かる人にしか分からない時計ですが、実はとてもすごい時計です。
その後クラフツマンはシリーズ化し径大化したS526Xシリーズへと発展します。
私はこのS526Xクラフツマン(2824)をいつも愛用していますがいったんこの時計を使い出すとほかの時計をしなくなるのが自分でも不思議な感覚です。
あえて理屈をつければ、軽さと、使い勝手と、飽きの来ないデザインが多分そうさせているのだと思います。
超実用時計は名ばかりでは無いと身をもって確信しています。
さて、少し話が戻りますが2001年から防衛省(当時は防衛庁)の陸、海,空、各幕僚との協力により正式な陸海空エンブレムの入った自衛隊モデルを造り始めました。
スタンダードタイプ(S455M)から始まり迷彩、ブルーインパルスモデルなどご存知のようにこれまで数多くの自衛隊モデルを製作しています。
この日本を守る自衛隊員の方々、そのご家族、そして自衛隊ファンの方々を含めて多くの方に支持をいただき今ではたくさんの方がケンテックスの自衛隊時計をお持ちです。
Kentexといえば自衛隊時計の代名詞のようになっています。
2010年にはブルーインパルス50周年記念時計としてバルジュー7750を搭載したスペシャルモデルを限定版で50個製作発売しましたが50万円(税抜き)という価格にもかかわらず1ヶ月以内に完売してしまう状況でした。
この企画推進も担当者の熱意とものづくりの思いがこの時計の完成度に表われ細かいところまでこだわりの詰まったとても魅力の高い時計に仕上がっています。
プレミア狙いで買った方もいるのにはびっくりしましたが事実その後の価値は上がっているようです。
その後も陸、海、空それぞれに新モデルが開発されていますが最近ではJ-solarとうたった光を動力源としたソーラー時計(クオーツ)を発売しとても好評です。
さてここまで長々と過去のケンテックスモデルを振り返ってきました。
私自身の時計造りの人生を振り返ったような思いになります。
KENTEXブランドをスタートして16年そして会社設立後25年の今、一つの区切りとしてこれまでの技術を総結集した記念碑的本格モデルの開発を決め、今まさに進行中です。
そのモデルはやはりこれまでのシリーズでもっともケンテックスらしさが出ているCRAFTSMANです。
ブランド10周年で登場したこのモデルをさらにブラッシュアップしブランドの顔となるさらに上位の本格時計をめざしているのが次世代クラフツマンです。
次回からこの新クラフツマンのモデルを紹介していきます。
2014年8月3日
橋本憲治